有給休暇完全マニュアル!上限は40日?買取は不可?全ての疑問解決

社労士をやっていて労働者から最も多い質問の一つが有給休暇。

労働者にとっては自分の休みが決まる制度なので、そりゃ気になるのは当たり前です。

簡単なようで実は意外と複雑なこの制度。

いろんな疑問があると思いますので、ここですべてに解答してみたいと思います。

自社の有給休暇制度が正しいの?と疑問を感じている人は参考にしてみて下さい。

有給休暇の疑問徹底解決

入社後いつからもらえる?

まずは基本的な有給休暇の発生要件から

条文そのままだといろいろとややこしいので、噛み砕いて説明していきます。

原則的に下記を満たすと有給休暇が発生する、つまりは休める権利が発生すると考えて下さい

  1. 雇い入れ日から起算して6か月間継続して勤務している
  2. その6か月間の全労働日の8割出勤している

1の継続して勤務という部分なのですが、早い話が契約が切れてないことです。

例えば、3か月勤務後に関連子会社に出向になった。

というケースはよくある話です。

いわゆる在籍型出向といって、本社に籍は残しつつ出向先に配属されるだけであればこの期間は継続となります。

次に全労働日って何と思われるかもしれませんが、これは会社の労働日と考えていいでしょう。

土日休みの会社なら土日を除いた労働日の8割出勤してればOK。

日数は何日もらえる?

有給休暇の付与日数は毎年以下のような形で増えていきます。

勤続年数 0.5年 1.5年 2.5年 3.5年 4.5年 5.5年 6.5年以上
付与日数 10日 11日 12日 14日 16日 18日 20日

まず入社半年で10日ですので、仮に1月入社の場合は普通に出勤していれば、7月から有給休暇が付与されます。

ですので、その年の7月から翌年の7月までは10日間。

その翌年の7月から翌々年の7月までは11日間という形で年々増えていき、入社から6年6か月経過するとMAXの20日間となります

これは労働基準法で定められた最低限の日数ですので、会社側が福利厚生で独自に増やすことは問題ありませんが、この数字を下回る規則を定めることは出来ません。

有給休暇の上限は40日?

有給休暇の上限は40日だと労働基準法で決められている!

という認識をしている人も多いようですが、労働基準法で上限日数を定めている訳ではありません。

前述したように6年6か月継続勤務したら1年間の有給休暇はMAXの20日もらえます。

ですので、それ以降は毎年20日間。

でも使わなかった有給休暇はどうなるの?と疑問が出てきます

20日間のうち5日間しか使わなかった。

残りの15日は翌年に持ち越すことが可能です。

つまりは20日間まるまる使わなかった時は、20日間そのまま翌年に持ち越しできる。

なので次の年の20日間と合わせて40日間分の有給休暇が溜まります。

で、さらにその年も有給休暇を使わなかった。

じゃ、次の年は60日間溜まることになるじゃん。

ですが、これは60日間にはならず次の年に残るのは40日間なのです。

え?なんで20日どこ行っちゃったの?

その20日間は時効により権利が消えてしまったと考えて下さい

この図を見ていただくとわかる通り、2年経つと時効で権利が無くなってしまうのです

だから上限は40日になるのです。

ですが、これはあくまでも時効で権利が消えてしまうだけなのです。

会社側は使用しなかった有給休暇は、時効に関係なく溜め続けることが出来る!という規則を決めれば延々積み重ねることも可能です。

もちろんそんな制度を採用する会社はないと思いますが。

有給休暇の買取は?

有給休暇って買取してくれないの?という疑問は多いようです。

法律上買取してもいいかどうかとなると、労働基準法では有給休暇は与えなければいけないとしています。

ですので、休暇を買い取ることで休みを与えないのはダメです!と言っているのです。

だから買取ることは出来ないと考えて下さい

ですが、例外的に買い取ることが許可されている場合もあるのです。

それが前述した図の時効でなくなってしまう休暇です。

時効でなくなっちゃう20日間分なら会社は買い取ってもいいんです。

ですが、これをする会社もほとんどないでしょう。

時効でなくなる分を毎年買い取っていたら、会社の負担は膨大になってしまいます。

無くなっちゃうのわかってるのに、休めない、それじゃ買い取ってよ!と思う気持ちも理解できますが、買取は出来ないと考えて割り切った方がいいでしょう。

アルバイトでも有給休暇はある?

まず原則として有給休暇は、アルバイトだろうが正社員だろうが関係ありません

通常の正社員のように毎日勤務しないような労働者には、比例付与という制度で有給休暇が付与されます。

比例付与というのは、通常の社員みたいに労働時間が多くないので、その分有給休暇もイッパイは取らせられないけど、ちゃんと計算して有給休暇あげますよという制度。

比例付与が適用されるのは以下のような人です。

  1. 1週間の労働時間が30時間未満で4日以下の人
  2. 1週間の労働時間が30時間未満で年間労働日数が216日以下の人

つまりは、バイトでもこの条件以上の人であれば、通常の社員と同等の有給休暇となります

例えば週4日で1日5時間の勤務の人がいるとします。

その人の計算式は10×4/5.2=7日となります

時間単位で有給を取れる?

一昔前は、有給休暇で1日もしくは半日しか取れなかったのですが、今は労働基準法が改正され1時間単位での取得も可能になってます。

なので、勤務中に保育園から呼び出しがあり、急遽迎えに行かなきゃ。

なんて時、2時間だけ有給休暇を使用するということも可能です。

これはすべての会社で採用される訳ではなく、就業規則等に定め労使協定を結ぶ必要があります。

労使協定って何?という方はこちらを。

労使協定って何?労働者の代表なんてウチの会社にいないよ!

ですが、現実的にあまりこの時間単位年休って使われていないのではないでしょうか?

例えば前述のケースなどは、柔軟な職場であれば2時間くらいいいよと免除してくれることが多いですし、1時間だけ休みを取ってもあまり使えないですからね。

ちなみにこの時間単位の年休は通算して5日分使用できます。

時季変更権で休暇の日を変えられる?

有給休暇は、原則的に労働者が希望した日に取る権利があります

ですが、いつでも自由に取られたら経営側としては困る!

そのため経営者側に労働者が希望した有給休暇の日を変更する時季変更権という権利が用意されています。

これってガンガン使われたら、私たち希望の日に休めなくなっちゃうのでは・・・

と思うかもしれませんがご安心ください。

この時季変更権を行使できるのは、事業の運営を妨げる場合に限られています

例えば、あなたが水曜日に休みたい!と希望したとして、その日あなたがいないことで事業の運営が怪しくなるなんてことあり得ますか?

事業の運営を妨げるケースというのは、1人しかいないお店であなたがいないと開店出来ないというような限られた場合になります。

長期の有給休暇とか、複数名での有給休暇となれば事業の運営を妨げることになる場合もありますが、一般的な労働者の場合ほぼ時季変更権が行使されることはありません。

計画付与って何?

会社側で有給休暇の計画付与制度というのが始まり、年間5日間しか自由に使えなくなった

これって違法なんじゃないですか?

残念ながらこれは違法ではないのです

有給休暇には、計画的付与制度というものが認められていて、有給休暇の5日を超える部分に関しては、会社側が定めた日に取得させることができるのです。

5日を超える部分って・・

と思うかもしれませんが、労働基準法を素直に読めばその通りで、早い話が5日間だけ自由に取らせてあとは会社で決めて日に休ませればいいという事になってしまいます。

もちろんこの制度を採用するためには、労使協定が必要ですが、知らなかったという人も多いでしょう。

とはいえ、5日間しか自由に使えないのであれば、社員の不満も大きくなるだけですので、通常の企業では計画的付与も3~5日間程度に抑えておくのが一般的なようです。

有給休暇の理由は?

有給休暇を取得する際、多くの企業では届け出を出したり、口頭で上司に伝えると思います。

その際に理由を問われることがあるかもしれませんが、これは拒否しても何の問題もありません。

有給休暇は取得する理由に応じて、許可したり拒否したりできるものではありません

経営側に唯一認められているのは時季変更権ですので、これは会社側の理由であり、労働者側の休暇の事由とは無関係でなければいけません。

こんな忙しい時に旅行に行く?それなら今じゃなくてもいいでしょ!という権利は経営側にはないんです。

とはいえ、労働者側も事業の状況は考えて取得するべきです。

でないと、休暇取得により職場の雰囲気が悪くなることも考えられますので。

有給休暇中の賃金は?

有給休暇中の賃金はいくらもらえるのが普通なの?

労働基準法では以下のように定められています

  1. 平均賃金
  2. 通常の賃金
  3. 健康保険で定める標準報酬日額

何これ?と思うかもしれませんが、実はこんなルールがあるのです。

1と3の計算方法はちょっとややこしいので、ここでは割愛します。

一般の企業では、1と3の運用は面倒なため、1日休んでも給料は引かない、つまりは2の通常の賃金を支払う形で運用しています。

ですが、キッチリと計算したら2よりも1とか3の方が若干安くて済む。

それなら1と3の賃金を支払おう!とされても文句は言えないことになります。

まぁあまりこんな面倒な運用をしている会社はないと思いますが念のため。

考課査定に影響する?

有給休暇を取得することで査定の評価が下がったり、上司から白い目で見られるなんて話もあるようです。

ですが、有給休暇を取得することで不利益な取り扱いをしてはいけないと労働基準法で定められています。

ですので、上司や周りの社員から不当な扱いを受けたり、ましてや考課査定に影響するなんてことはあってはいけません

こんなことがあると、ただでさえ低い有給休暇の取得率がさらに下がるだけです。

もしこのような不利益な扱いを受けているのであれば、上司にしっかりと訴えるべきでしょう。

退職時にすべての休暇を取得できる?

会社を退職する時にすべての有給休暇を使い切ることは、法律上まったく問題ありません

退職する前最後の1か月は有給消化というのが一般的になりつつありますので、これは罪悪感を感じる行為ではありません。

とはいえ、引継ぎも一切済ませていないのに、権利だからと言って全部休んでしまうのは道義的によろしくないでしょう。

多少使い切れない部分があったとしても、立つ鳥跡を濁さないのが美しい会社の辞め方です

また有給の買取はできないと前述しましたが、これにも例外があり、退職までに全部使いきれない部分を買い取ってもらうことは容認されています。

例えば40日間有給が残っている状態で、1か月後に退職となれば10日間近く使い切れません。

この分を会社側が買い取る行為は違法とは考えられていないようです。

2019年4月から有給休暇の制度が改正(追記)

2019年4月から有給休暇の制度が改正されます。

これまでは有給休暇を取得することは原則労働者側の自由でしたが、有給休暇の取得率が一向に上がらないため、使用者側に有給休暇を取得させることを義務付ける制度が付け加えられました

簡単に言えば、年次有給休暇が10日間を超えた社員に対しては、5日間の取得の要望がない場合、使用者側が期間を決めて有給休暇を取得させるようにするという制度です。

これにより有給休暇の取得率向上を期待しているようです。

中小企業にとってはかなり厳しい制度となりますが、これが昨今の傾向ですので従わなければイケません。

詳細はこちらをご覧ください。

まとめ

有給休暇って労働者に与えられた大きな権利です

  • 病気をした時
  • 家族が倒れた時
  • 旅行に行きたい時
  • ちょっと仕事に疲れた時
  • 子供の授業参観等に参加したい時

あらゆるシチュエーションで利用可能な便利な制度です。

とはいえ、あまり権利ばかりを主張するのはいただけません。

会社側から見れば、働かないのに給料を払わなければいけない制度ですので、特に少人数で経営している企業にとっては、あまり有難い制度ではありません。

ですので、権利だから当たり前!という態度で休暇を取得してしまうと、労使の溝が深まる可能性も出てきてしまいます。

有給休暇は、せっかくの権利ですので積極的に利用すべきですが、職場の状況や業務の状況を考慮し、友好的に活用することを推奨します

経営側は有給休暇をより取得しやすい制度作り、そして雰囲気作りが求められます。

労働者側は、有給休暇を取得する際の状況判断や時期の判断。

このようにお互いが歩み寄ることにより、もっと有給休暇を取得しやすい環境を作り、労使双方で納得できる環境を整えていくことが非常に重要になるのです。

 

こちらもよく読まれています。

社労士試験に最短距離で合格するための勉強方法総まとめ